治の願い
俺を
降ろさせて
ある夜
治は言った
突然の言葉に
私は分からなかった
治が
降りたいと願うとするならば
それは
現実のお相手の肉体
私にお願いするのは
筋が違う
お願いしている
肉体が違う
君が
拒否している
そう言って
居なくなった
私が絶望に居る時
私が涙で
何も見えない時
灯りを差し出して
涙を拭いてくれたのは
治
どんな時でも
傍に居てくれた
この物理的世界では
出来ないような
そばの居方で
私と共に在った
一人じゃない
そう前を向く
確信を教えてくれたのは
治
俺を降ろさせて
私ね
治の残した言葉を
考えていた
お相手の幸せを
奪わないで欲しい
私の中の
隅っこにあった言葉
誰のお願い事?
治が
お相手の肉体に入ると
今のお相手では
居られなくなる
私が
この肉体に入った時と同じ
前の
私は居なくなったもの
治が
お相手の肉体へ降りる時
今在る
お相手は
消える
だったら
そのままでいい
お相手の今在る
姿を
崩し切って
治と生きさせて
なんて
願えるはずないじゃない
そのままでいい
治は治のままで
お相手はお相手のままで
別々のままでいい
いつかは
そんなことを
私思っていたな
0コメント